番外編:

帰国1年後のある日…。見知らぬドイツ人を連れてTOKYO観光をすることになった。そのたった6時間に垣間みる西洋と日本、文化と教育の違いを見せつける珍道中。

 

 

1. ドイツ人との東京観光 - 前編 -

 

ベルリンに住む友人から連絡があった。
近所の店の店員さんが。休暇で東京に来るという。
初ニッポン。初トーキョー。
『誰か知らない?一日案内してくれるだけでいいんだけど』
というわけで。私に白羽の矢が立った。

ウー。また来たか…。
実は。過去、2回ほど。
外国人を連れて東京観光したことがあるのだが。
どちらも成功していない。

どこどこに行きたい!というものがあって。
そこに向かって連れて行くのは簡単だが。
問題は、それがないのである。

つまり。
その日のエンターテイメントが、
全て自分にかかってしまうのである。
しかも。
ちょっとした知り合い程度だったりするので、
趣味趣向がわからない。

前回、オーストラリア人を案内したときは。
都内をあちこち連れ回したが、
全く、興味を示さず…終了。
東京を去る当日に。
多摩川の土手へ散策に連れていったら。
なんと。
河原を歩いたり、石を拾ったり大はしゃぎ。
一番喜んだ…。

ああ。この人。
自然が好きだったのか…。ガクッ。
という結末で大失敗に終わった。

その教訓を生かし。
今回は事前に準備をしようと。
メールで趣味趣向を聞いてみた。すると。

* フリーマーケットが好き
* 歴史的な建造物や街に興味はない
* テレビで見たクレージーな仮装をして座っている人をみたい
(原宿、代々木公園前と思われる)
* 港に行きたい
* ツーリストじゃ行けないような所に行きたい。

ということであった。
えっ。港!? 東京湾ですかー?

事前情報これだけ。はあ…。
もー。じゃあ。そんな面倒な事。
断ればいいじゃないか。
と思うかもしれませんが。
なぜ引き受けてしまうかと言うと…。

私も世界各地で同じように面倒を見てもらった。
自分だって好意を受けたのだから。
今度は自分がやらねばっ!という気負いと。
今度は与える側にまわらねばっ! という気持ちと。
(↑『与える』と思っている時点でおこがましい…。)
なんといっても、前回。
オーストラリア人の観光が大失敗に終わった、
あの負い目もある。
今回こそは楽しんでもらいたいという欲。

つまり。
一見、見も知らぬ人を案内し喜ばせようと。
人が良いように見えるが。
実は。その人を使い、
過去の数々の負い目を払拭したいという、
単なるエゴイズムなのである。

人の為は自分の為とはよく言うが、
ほんと。
それがわかりやすく出たかたちである。
あー。我ながら。
ひでーな。全く…。

ともかく。
どんな人であろうと。
絶対。一日、エンターテインさせよう!
『東京は楽しかった』と思わせてやるっ!
と。心に誓った。

                   * * * * * * *
最終メールが来た。
「じゃあ、朝9時にホテルで!」

えっ!? 朝9時からってことは…。
昼すぎに『じゃあね、バイバイ』って言うのも失礼だから、
せめて日が暮れるまでとなると…ざっと10時間。
えーーっ。
10時間のエンターテイメントメニュー。
しかも。見知らぬ人に対して…。
も〜。無理っ!

というわけで。
友人も誘い、途中から合流してもらうことに。
彼女の『朝9時から一日は長すぎでしょーっ!それは断るべし 』
との助言を受け。
結局。東京観光は昼からに変更した。

    * * * * 確固たる計画がないまま当日 * * * *

青山一丁目の宿の前。
いる…。誰かいる。

ホテルの前に白人のモサ〜イかんじの男。
というか、おっさん。
というか、身だしなみがテキトーすぎて、
ジジイに近い。
この人。ドイツ人ぽい。間違いない。

と。ここで異変がっ…。
なんと私のテンションが下がったのである。

脳ミソの反応が。
なんだよー! ジジイかよー!というわけだ。

いや。誤解のないように言っておくが。
私は外人とお近づきになりたいとか微塵も思っていない。
過去数年間、外国にいたので。
欧米人が全員プラピのようでないことも知っているし。
ギャグがお互い通じないことも知っているし。
通じないネタも沢山ある。
自分の語学も、堪能ではない。
そして。私も年を取ったので、
心のどこかで。もー。外人は面倒くさい。と。
思ってしまっている。

それなのにーっ。
ジジイ的外見でテンションが下がるとはーっ!バカ者がーっ!
今日は絶対、コイツを楽しませきゃいけないのにーっ!
も〜っ。

ま。とりあえず。握手して挨拶。
ガンバレー。私のテンション!

「どう?フリーマッケット行ってみた?」
「まだ行っていない」
「よしっ!明治公園のフリーマーケットに行こう!」

とりあえず。
この先1時間半くらいの予定は埋まった。
ふう。よかったー。
しかし。
フリーマーケットまでは歩くと20分。
電車だと一駅乗れるが…
一駅だけでも電車に乗るか?と聞くと乗ると言う。

ウーム…。でも。彼はベルリンに住んでいる人。
ベルリンでは皆、金を使わないで遊ぶ。
自称アーティストが世界中からやって来て、
たむろっている街。
皆。金を遣わない生活が身についている。
そして。ドイツ人は財布の紐が固い。
なーんかいやな予感がして、確認してみた。

「あ。でも東京では切符は一回しか使えないよ。
乗る度にお金払わないといけないよ(注1)」
(注1 ベルリンではゾーン制なので、同じエリア内であれば乗り換えしても駅出ても同じ切符が使える)
「一回しか使えないの?」
「そう」
「じゃあ。歩く」

そーだよねー。
ここが東京観光で気を遣うところなのだ。
メトロや私鉄やJRと。移動には結構、金がかかるよ。
ということを分かってもらわないといけない。

「でも。あとで。君に電車の乗り方教えてもらわないとなー。
昨日、渋谷に行ったんだけど。歩いていったんだ」
「えっ。3駅分あるよ。帰りも?」
「そう。帰りも。もう足が死んじゃうくらい疲れた」

それくらいガイドブックに載ってるでしょーがーっ。
この人。まったく何も調べずに東京に来ている…。
調べる気もない…。
というか、一人で電車に乗ってみようともしていない。

やばい。この人…。丸投げコースだ。
ガイドブックも見ていない…。
行きたいところも『わからない』と言う…。

さーて。
一日エンターテイメントメニューを。
考えねばならなくなりましたー。
しかも。即興で。今、組み立てねばならぬ。
(↑結局、事前に用意していない…)

条件: 電車はあまり乗れない。
切符は一回しか使えないから…。

さあ。ドイツ人との。
東京観光が始まりましたー!
ガンバレー。私のテンション!

意外な質疑応答やら、
びっくりな行動やら。
次回はその一部始終を。

 

 

2. ドイツ人との東京観光 - 中編 -

 

今日案内する人がどんな人であろうと。
一日、東京を絶対楽しませてやる!という決意で。
ホテルにお迎えに赴いたものの…。
私の低俗な脳みそが。
『なんだよっ!ジジイかよっ!』と反応し。
急激にテンションが下がったのが前回。

しかし。ここは気を取り直して、
一日東京観光スタート!
フリーマーケットを目指し、青山通りを歩く。

                        * * * *  * * *
「いやー。君が今日来てくれて助かるよー。
ボク一人じゃどこ行ってよいかわからないしー」
(ギクッ。私もわからない…)
「でさあ。東京は。日曜日、店は開いているの?」

ふむ。早速。ドイツ的発言。
ドイツでは戦前から閉店法なるものがあり、
日曜日はお店を開いてはいけない(注1)
(注1)平日も20時までという規制があったが。

2006年に大幅に改訂され、だいぶ規制も緩くなったけど日曜日はやっぱり休み。


「うん。日曜日も店は開いているよ」
「えーっ。じゃあ、働いている人は休みがないの?土曜日だけ?」

ウーン。これまたドイツ(ヨーロッパ?)的発想か。
つまるところ。
閉店法はキリスト教からきている。日曜日=安息日だから。

「いや。水曜休みの人もいれば月曜休みの人だっているし…」
「ふうん。ドイツではねえ、日曜日は何もしないんだよ」
まあ。それはキリスト教的文化背景だからねぇ…。

コンビニに寄った。
彼は。ドイツのミネラルウォーターを買った…。
えーっ。それ。観光客として、ダメでしょ。チミー!

そうこうしているうちに、
フリーマーケット会場、明治公園に到着。
フリマが好きな彼はテンションがあがる。
おおーっ!こちらも低俗な脳みそとはいえ、
喜んでもらえるとモチベーション上がります。
来てよかったー。

よーしっ!私も楽しむぞーっ!
と思い、店を見ては立ち止まるのだが。
彼は同行者の行動おかまいなしに。
スタスタ行ってしまう。

ウーム。
さすが個人主義社会で生きてきた人ってかんじ。
と思うのは、いささか短絡的か。
でも。お互いが個人行動を取っていては。
あの人、ケータイ持ってないし…はぐれてしまう。


しかし。哀しくも。
バカの一つ覚えのように。 
意味を考えることも。疑問に思うこともなく。
集団ラジオ体操なんかで育ってしまった私は。
会社の忘年会は行かなくても。
『人に合わせる』という血はどこかに流れている。

彼が立ち止まった店の隣で、
無意味に商品を取り上げたりして。
店を見ているフリをし。
私も楽しんでますよー。的な素振りをみせつつ。
そのドイツ人を見失わないよう、
目の隅で追うことに専念する。
↑まさに添乗員!
いや。添乗員は堂々と同行者を見張れるから。
こっちの方が高度な技だ。と思うのも。
いささかおこがましいのか…。

「なんかいいのあった?」と彼。
「あ。ウ…。えーっと。まあ…。ウーン。ないね」と私。
「そうだよねー。ゴミばっかり!全部シャイセだね(←ドイツ語でクソという意味)
あのねー。フリマはそういうものなのよー。
ゴミの中から何かを見つけるものなのよー。
というか。チミ。案内係に失礼だなー。全く。
ま。正直とも言うが。
そもそも。
ホンネというのは失礼なものである…。

しかし。このドイツ人。
フリマは大好きというが。
どうやら、CDの山しか反応しないようだ。

お。またCDの前で立ち止まったが。
『全然ダメ』というふうに首を振ってまた去って行った。
これは。まずい…。

「どんなCD探しているの?」
「レゲエ」
「そっか。レゲエが好きなんだー」
「えっ。君もー?」
彼がうれしそうに言った。
「いや。アレステッド・ディベロプメントは好きだけど」
「それ、レゲエでなくヒップホップだから」と。
がっかりするような口調でクギを刺された。
「あ。レゲエか。えーっと…」
あれ?レゲエあんまり聴かない…。
「ボブ・マリーくらいかな」と私。
「まあ。皆ボブ・マリーだよね」とまたテンション下がる。
ちょっとー。あのねー。そこ。
盛り下がりポイントじゃないし〜。頼みますよー。


そして。珍しくCDでないところで立ち止まった。
Tシャツがいっぱい売っている。
「品物はここにあるのが全部か聞いてくれる?」と。
ウーン…。でも。フリマだからねえ…。
当然、ここにあるものが全てとの回答を得たあと。
その店の兄ちゃんを見て、
「あのT-シャツが欲しい」と。
「えっ。どれ?あの彼が着ているやつ?」
「そう」
「いや。あれは彼が着ているから…」

                       * * * * *
ウーム。確かに…。
何ごとも聞いてみないとわからない。
と教えてくれたのはドイツであった。
ドイツはサービス業が盛んでない。
店員が面倒だと思うと、出来ることでも。
『それはできません』とかテキトーな事を言う。
だから。ドイツの生活の基本は。
ダメと言われても。ダメだと思っても。
もう一回、掛け合ってみることだったりする。
交渉したり、食い下がらなけらばいけないことが日常的にある。

                      * * * * * * *
結局。お兄ちゃんの着ている、
レゲエのレーベルのT-シャツは断られ。
フリマは終了。

さあ。困った。
東京観光はまだ始まったばかり。
しかし。私はこのフリマの間。
密かに次のプランを練っていたのである。

Disk Unionが気に入ったという話を聞いたので。
では。下北沢のDisk Union に行ってそのあと。
日本のB級グルメ、お好み焼きでも食べにいくか。と。
で。誘っておいた友達とその辺りで合流すれば。
3人集まれば文殊の知恵となり。
あとはなんとかなるかなと。

「下北沢のDisk Union行ってみる?」
「あ。行きたーい!近い?」
「電車で10分くらい」
「ああ…。ウーン…そっか。じゃあダメだね」

えっー!? 何がダメなのか。電車がダメなのか?!
(参照: 前編)
とりあえず。代々木公園まで歩く。

        * * * * *代々木公園 * * * * *
「わーっ。いいねー。いいねー。きもちいいねー」
と。大はしゃぎ。
お〜。今までで一番喜んでいる。
でも〜。
ベルリンにもこんな公園たくさんあるし…。

「わー。いいねー。いいねー。いいよー。ここ」
ごめん…。でも。
マウワーパーク(注2)じゃダメなんですか〜?
(注2:ベルリンの公園)

「隣に有名な神社、明治神宮もあるけど。行く?」
「ンー。ボクはあんまり興味ないからべつにいい」 
ごめん。本当に。
マウワーパークじゃダメなんですかー? 

真冬の中。
公園にずっといるわけにはいきません…。
困りました…。
 一日はまだ始まったばかりです。まだ昼の2時30。
ガンバレ〜。マユゲ。 

次回はこの続きを後編にて。

 

 

3. ドイツ人との東京観光 - 後編 -

このドイツ人の問題。
行きたいところがない…。
そして。この人の大問題。
電車に乗らない! 

『お金もかかるしね。歩いていけるところいこうよ』という。

まあ。堅実ドイツ人なのだが…。
東京はね。広いんですよ…。
 
というわけで。
昼12時に青山のホテルにお迎えに行って以来。
ひたすら歩いている私たち。
ただ今。代々木公園。そして昼14時30。
 

代々木公園の寒空の下。両手を広げ。
「ンー。気持ちいいねー」
と大喜びのドイツ人を横目に。
私の心は大いに複雑であった…。

また。このパターンか。
昔。オーストラリア人を案内した時も。
一番喜んだのが多摩川の河原だったりし。
で。今回は公園ですか…。

しかーし…。もっと。
東京にしかないものを見て喜んでもらいたい。という
案内人としての責任感というか、欲が沸き上がる。
もはや。それは彼のためでなく。
自分のためである。というのもわかっているが…。

隣の明治神宮でさえ、興味ないから。と却下。
っつうか。やっぱり。君。
ムチャクチャ、はっきり断るよね…。

ならば。原宿の竹下通りは…。というと。
「入ってみる?」

「Oh ,ナイン!(= ドイツ語版 oh no) 」と首を振り
人ごみの写真を撮って。

「ン。ボクはもういいよ」と。

代々木公園のロカビリーを踊る集団も…。
非常に喜んだものの。3分後。
「ン。ボクはもういいよ」と。

あのねぇ。ボクはいいよ。って。
私はそもそもいいんですよ。
行きたい所とか言いなさいよー!全くっ!

一体どうすれば…。
というわけで、私は密かに友達にSOSを送っていた。

『マユゲ、ガンバッテー。今行くからねー』

                   * * * * * * * * * *
『どうしよう』という状態は。

裏を返せば『問題を解く』という、
エンターテイメントである。
1人の『どうしよう』はただの『どうしよう』であるが。
2人の『どうしよう』はいわば。
『謎解きゲーム』という
ちょっとしたエンターテイメントに昇格する。

* * * * * 助っ人、友人A子登場 * * * * * 
ああ。助かったー。
なんかもう。超、気が楽。

友人は「普通のおっさんやね」と。
私に耳打ちしたあと。
にこやかにドイツ語で話しはじめた。
私はもう救出された感じで放心状態。アホ面でついてゆく。
いい友達を持っていて本当によかった。

そして。私たちは。
『どうするー。どうするー』という会話をし。
(ああ。もう。どうするー?って言い合えて超幸せ!)
お茶をすることに。 
道中、友人は。ちょっと入っていい?と。
ユニセックスなアクセサリー屋に入っていった。

すると…。ドイツ人は。あれ〜?! 入ってこない…。
男女兼用の物を扱う店でなので入りにくいわけではない。
興味がないから入らないのである。
で。興味がありませんよー。退屈ですよー。
というのを隠さない。
さすが。やっぱり。この辺がちょっと感覚が違う。

                     * * * * * * * * *
そういや…。
ドイツの現地企業で働いていた時。
自由参加のプレゼンがあった。
時間になると皆いなくなったので、
全員、参加しているらしい…。
え〜っ。なんか。興味がないとは言え。
全員いなくなると不安になる、ザ・日本人の私。
そこへ。1人だけ残っているドイツ人の同僚を発見。
「なんか皆いないし…。いいのかなあ?」と私。
「ン!?」と。ドイツ人。
「ほら。みんな。いないしー」

その同僚はキョトンとしていた。
つまりだ。この人は。
皆の行動と自分が何の関係があるのか、
私の言っている意味がわからないのである。
皆が行った=行かなければいけないのでは?
という発想が皆無なのだ。
自分は自分。他人は他人なのである。
いや。日本人だって皆、本当はそう思っている。
でも。その根底に流れている、ゆるぎなきものが。
よくも悪くも個人社会で生きてきた人たちとは違う。

       * * * * *  アクセサリー屋 * * * * *
やはり。放っておくのはちょっと気になる…。
5分後。ちょっと様子みてこよう。ということになり。
私が外に出ると。
あれ〜? 店の前にすらいない。
慌ててあちこちウロウロすると。
少し離れた道路の縁石に座っていた。

「なんかいいのあった?」と彼。
彼はいったって普通であった…。

                    * * * * * * *
「そうそう。友達がやっているお好み焼き屋さんがあるけど行く?
ジャパニーズ、PIZZA、レッカー!(=ドイツ語でおいしいの意)」とA子。
「いいねー。いきたーい。近く?」とドイツ人。
「えーっと。電車でねぇ…」
(ああ…。電車ーーっ!)

当然。却下。

渋谷まで歩き(←また歩いている)、回転寿しへ。
安くて(←これドイツ人重要)おいしいのでけっこう喜んだ。
その後。日本のクレイジーなデパ地下食品売り場とかを見せたが、
反応今ひとつ。
それじゃあと。渋谷のスクランブルへ。
そして。スクランブルを突っ切り、
センター街に入ったとき…。

「もしかして、ここ、ボクのために来てくれている?」とドイツ人。
(えーーっ?!今日はすべて、そのつもりなんですが…)
「ボクはいいよ。すごい人だし」と渋谷もあっさり却下っ。
ここでA子の顔が曇った。
ウーン…。なるほどね。と1人、何度か頷いたあと。
『ドイツ人ぽいね』と。
ボソっと日本語で言い、テンション急降下〜。
(あ〜〜〜〜〜っ!)

ドイツ人は足が疲れたからホテルに戻ることに。
「電車に乗る?」と聞いたらさすがに「乗る」と。 
(そうだよー。電車は必要なんだよー)
というわけで、銀座線の渋谷駅へ送りに行った。
結局。彼が今日、一番喜んだのは。
自然あふれる代々木公園であった…。 

彼の東京観光はあと7日。
「どっか行くプランとかあるの?自然とか好き?
1時間半も行けば山もあるよ。鎌倉とか高尾山とか」とA子。
「んー。自然とか興味ないから」とドイツ人。
(えーーっ。ちょっと待て。君が好きなのは本当は自然だってばー!)

何かが噛み合ないままの東京一日観光であった。
改札で、別れ際『じゃあ。また』と、握手を交わした。
この握手の味がなんとも言えなかった。 
この握手で、3人それぞれが『また』はない。と。
思ったに違いない。
人間の第六感は言葉以上に語るというわけだ。

ここでは割愛するが、義理ハグなんてのもあり、
これもなかなか罪深いのですねえ。


                  * * * * * * * *
片言ドイツ語から解放され。 ハア…。と。
ため息をついた私たち。

おもむろにA子が言った。
「だいたい…。もうちょっとカッコよければ。
こっちのモチベーションも上がるというもんだけどねぇ…」と。
(おおー。やっぱり君もか!) 
「そ。そーだよねー。やっぱり!」と。
低俗さ全開の私たちは『喋り足りねー』と言って、
再び夜の渋谷へと入っていった。

今日。問題があったのは、
彼の正直すぎる行動よりも。
私たちの低俗な脳みそだったのかもしれない。

とりあえず、
自分の見た目は磨いておこうと。
やっぱり。しょーもない結論に達した。
そんな一日であった。

でもね。
東京はね。乗り物に乗らないと。
どこにも行けないんだよ。

p.s. ま。ドイツ人、ン千万人がいて、全員がこういう行動を取るとは思いませんが…。