ドイツで鍛える生活 9巻
ここまでのいきさつを読んでいない方は前書きから順にどうぞ。
1. 最終決断 (前編)
この街(リューベック)に私の生活はない。
プライベートが充実していなければ。
仕事にも情熱がもてない。
だから。プライベートライフは仕事よりも。
優先されるべきものだと思う。
私は仕事より。
プライベートライフを取る。
契約更新インタビュー。
「辞める」と言った。
ボスは私に無期限の契約書を用意していたが。
(ヒェ~ッ!60歳までドイツにいられんがなーっ!)
この言葉を聞いたボスは納得した。
彼はルーマニア人。
やはり。仕事のためにドイツに来た。
彼の奥さんは。誰も知らないこの街で。
この閉ざされた私生活の虚無感に耐えきれず。
自国に戻った。彼は単身赴任なのだ。
そう。彼にも私生活はない…。
しかし。彼は止めた。
君の言うことはよくわかる。
でもあと1年。いや。半年。がんばろうよ。
その間に東京の仕事探せばいいじゃん!
明日。もう一回聞くから。ねっ!
と言って。これは final decision、
最終決断だと言う私を遮り。
1時間の面接は終わった…。
あと半年か…。ムリだー。
この不毛な私生活をあと半年はできない!
仕事のためにはいられない。
私は金よりプライベートライフを取る。
いや。待て。でも。
日本に。まだ私の生活はあるのだろうか。
もうないのかも…。
でも。ドイツにもない…。
結局。私は。
あの世(リューベック)に渡ったけど。
あの世にも入りきれず。
でも現世(日本)にもおらず。
三途の川で溺れているんだ…。
(この世とあの世の意味:参照: ドイツへ引越し #2)
「マユゲ!」と声がした。
別の部署の子に呼ばれ、付いて行くと。
「チョコレート買ってあげる」と言って。
10セント(10円)のチョコレートを買ってくれた。
みんな。やさしい…。
チョコレート。嬉しいけど。でもこの子。
私があと数年で40歳って知っているのだろうか…。
さて。自分のオフィスに戻ると。
ン!?フランスからメール。
パリのデパートで知り合ったあの人。
私とカンヌで。
セックス、ドラッグ&ロックンロールしたい、
(↑勝手に決めている)
あの女性である(参照: 鍛える生活8巻 2.迷走のススメ)
『ねえ。南フランスで仕事しない?
知り合いが仕事斡旋業やっているから。仕事用意できるわよ』
今日なんてカンヌは25度よーーっ!
『……… 』
運命よ。私をもて遊ぶんじゃないっ!無視!
帰り道。トボトボと川沿いのあぜ道を歩くと、もう泣けた。
ドイツは引き止めてくれるのに。
よくわからんが。
フランスにも仕事あるのに…(なんでだー!?)。
日本よ。君は振り向いてくれないのかい?
あー。大空よ。日本よ。
私を見捨てないでくれーっ(←魂の叫び)。
あっ。もしかしたら。
日本があの世になりつつあるのかも…。
もー。悲しーいっ!
どこにも属していない…。
夜。ベルリンの友達とSkype。
「もー。なんで、こう止められたりさあ。
なーんも関係ないフランスからも横やりが入るわけー?」
「トラップだよ。マユゲちゃん。トラップ」
そっか。わかった。罠か。チョコレートも罠か…。
心は決まっている。
トラップには引っかからんぞー。
そもそも。私は男気あふれるので。
決断を変えたことなんてない!
だって。言った事を撤回するって格好悪い…。
今。日本が『あの世』になりつつあっても。
私はまだ三途の川にいる。
まだ間に合う。今、戻れば間に合う…。
* * * * 翌朝 * * * *
Final decisionを掲げ。いざ出陣!と。
意気込んでいつものバスに乗り込んだはずが。
あれ~っ。景色が違う…。このバス違う…。
途中で飛び降りたり、走ったりと。
奇行を繰り広げつつ会社到着。
よーっし。午後になった。
もう後には引けない。そろそろ言わないと…。
ちょっと。一応。友達にも聞いてみよっと。
日本にメールした。
ここから数時間。もう仕事そっちのけで。
数十本のメールのやり取り。
私の人生を懸けたギャンブルを。
ニッポンの友人たちが真剣に考えた。
そして。不動だったはずの何かが動き。
舵が急に大きく切られたのであった…。
2. 最終決断(後編)
私の人生を懸けて。
日本とのメールのやり取りが。
仕事そっちのけで始まった…。
友人A:運命に流されてみなよ。
マユゲ:えっ。運命ってどっち?
友人A:誘われるほうが運命。
マユゲ:えっ。じゃあ。フランスじゃん。いやだー。いやだー。
友人A: 選択肢があるときは困難な方を選ぶんじゃなかったの?
(人生選択の方法: 参照;失業ブルース #2, ドイツヘ引越し#2 )
マユゲ:そうだけど…。
人生の選択はハードコアな方を取るべきだけどっ。
精神崩壊したら終わりなのよーっ!
冒険もそのへんの節度をもって冒険しないといけないのっ!
別の友人も参加:
友人B: 辞める時期もマユゲの勘だよ…。
マユゲ:でも。ここの生活がいやだから辞めるなんていうのは。
単なるわがままかも。今、簡単に日本に帰ったら。
神様から罰が与えられて仕事が見つからないかも…。
でも。あと半年ねばれば。
ご褒美に日本でも仕事をもらえるかも…。
友人B: そっかー。難しいねえ。 じゃあさ。
色々、契約に条件出せばいいじゃん。
再び友人A登場: もー。どれだって同じだよー。
マユゲ:ドイツと日本とフランスと。
どーやったら同じになるのよーーーっ!(←キレ気味)
でも。そうかも。結局。私は日本で4年半。
安定したヌクヌクした生活を送った。
これから4年間はどこ行っても転落人生ってわけか。
そういう意味では同じかも。
じゃあどこで転落するか。という選択なわけだ。
タイムリミットは刻々と迫る…。
もー。わかんなーい!というわけで。
コインを投げた(職場が個室だからこんな奇行もできる)。
10回投げてドイツだったら私は腹をくくる。
1回目-ドイツ。2回目-ドイツ。3回目-ドイツ。
ふう。『ドイツか… 』
4回目-日本。5回目-日本。6回目-日本。
『 …… 』
ここでアホらしくなってやめた。
やっぱり、裏と表しかないから50%の確立ってわけか。
自分の頭で考えろってわけだ。あと半年か…。
友人B: だからさ。半年以内でも東京で仕事が見つかったら。
辞めてもいいみたいな契約にすればいいんだよ。
言ったもん勝ちだよ。
マユゲ:そっかー。
再び友人A: 日本は不況だよー。
夕方5時。ボスを捕まえた。
「Can we talk now?」 「Of course」
* * *
「私は辞めるのを半年延ばせる。だけど。
でも…。なんといいますか…その…。
半年以内でも日本で職が見つかったら辞めてもいい?」
ボスはちょっと考えた後、OKと言った。
「でも… 」と私。
「辞めるって分かっている人を雇いたい?いいの?」
と聞いてみた。
「普通は雇わない。なぜならば。
辞めるってわかっていると、人はちゃんと働かない。
だけど。君はそういう事する人じゃないから」と。
ニコッと笑ってボスは言った。
「半年延長。日本に仕事が見つかったら1ヶ月前に言うこと。
これがボク達のAgreementだ。約束だ。いいね。
ま。普通、こういう事しないけどね」
と言って。またボスはニコっと微笑んだ。
この瞬間。私はルーマニア全国民を愛した(ボスはルーマニア人ね)。
君たちがジャカイモと肉しか食わなくてもいいっ。
私は君たちが大好きだ。
そして。この決定は。
ドイツ人の一番上の大ボスまで伝えられ、承諾された。
辞めるのを前提で正社員で契約。という。
不思議な契約。良識が常識を超えた…。
これは私が見たかった世界だ(参照: はかなき常識 )。
もちろん。これは。単に。
会社側としても都合がいいだけかもしれない。
でも。それでもいい。
たぶん。私は。
これからどんなに嫌なドイツ人とルーマニア人に会っても。
ドイツとルーマニアを心から嫌いにはなれない。
ま。こういう個人ベースで通じ合うことが。
国際平和みたいなものなのかしらね。
だって。その2つの国。もう憎めないもん。
日本の若者よ。よーく聞け。
自ら脱線せよ。日本を出よ。世界は広いのだよ。
下らん規則を止め。残業地獄を止め。
もうちょっとましな労働環境にするには。
皆が外に出て見聞してこないといけないのだよ。
そういう若者たちが日本に戻って偉くなって権限を持ったとき。
ニッポンの会社が変わればいいなって思うのですね。
若者よ。日本を出よ。
そして。私に職を明け渡しなさい(←結局これが言いたい)
オバハンはもう世界で冒険してきました。
帰る場所が欲しいのです。
* * *
契約の決定をメールで日本の友人に伝えた。
「でもさ。来月とかに日本で職が決まったらどうするんだろうね」
『……… 』
あー。そんなーっ。そんな非人道的な事になったら…。
ともかく。残された日々。
私は。彼らに愛されるように過ごそうと思う。
彼らがどんなに嫌な日本人に会っても。
日本が嫌いになれないくらい。
皆にね。愛されるようにね。
1人にだけ愛さてしまわないように気をつけながら…。
だって。1人に愛されてしまったら。
脱出できなくなるしー。
ってことは。ン?あれっ!?
恋愛禁止ですかー。えーっ。
やっぱり。ここ、絶対。お寺だーっ!禁欲だーっ!
というわけで。
リューベック寺での生活はもう少し続きます。
p.s. 夜中に。日本から私の人生ゲームのコマを進めてくれたみんな、ありがとう。
続き→ ドイツで鍛える生活10巻