ドイツで鍛える生活 1巻

1. 初出勤

ドイツ到着の翌日。初出勤。

はて。自分の英語は会社勤めができるレベルなのだろうか…。

言っている事がわからなかったらどうしよう。

(今更何を言っているんだ!)

と。いきなり不安に。

でも。あんた、面接、英語だったでしょー?と皆さん思うでしょうが、

いや。まあ。そうなんですが、テクノロジーの進歩で。

面接はSkype面接のみだったのです。

東京の6帖間にちょこんと座り畳の上でMac book に向かい、

『Oh, well~』とか言っては

壁一面に貼ったカンニングペーパーをちら見していたのである。

(面接の様子は失業ブルース参照)

 

*2ヶ月前のskype面接時、実は、こんな状態で面接をしていた↓。想定外の質問もいっぱいあったけどね。あるだけで心強いでしょ。これ。

 

しかし。もう今更どうすることもできないので開き直る。

が。今度は別の問題…。

 

はて。海外では初出社日は何を着ていくのだろう?

スーツとかは絶対浮くだろうからジーンズか。

(そもそもスーツなんて持ってないのだが…)

初日にジーンズ。いいのか…。

散々迷ったあげく、小奇麗なジーンズにした。

それにカーディカンとロングブーツ、プラス、首にスカーフを巻き。

いざ出勤!

 

会社に到着すると。あれ~!? 皆、Tシャツ&ジーンズ。超ラフ。

ジーンズで崩しておいてよかった。

これ以上の服装はかなり浮くとこであった。

 

面接したボスに挨拶に行く。とりあえず、握手。

『フライトはどうだった?』とか当たり障りのない会話なので、

久しぶりの英語だが、わりとスラスラ言える。

(ま。実は飛行機の中で、何を言おうかシャドーボクシング並に

1人ブツブツ英語で言ったり、予行練習はしていたのだ…)

相手の言っていることもよくわかるし。よかったー。

 

しかし。

私の課のボス、ドイツ人じゃなかったことが判明。

ルーマニア人であった。

で。彼の下にチームがいくつかあるのだが、

私が所属するチームのリーダーも。

ルーマニア人であった…。

で。そのチーム、私を含め5人なのだが。

なんと。全員。ルーマニア人であったー。

えーーっ。

 

ボスと各部屋を訪れ、紹介される。

その度に一人ずつ握手する。

クリスチャン、アンドレ、マティアス、

またアンドレ、またクリスチャン…、と。

欧米人の名前はバリエーションなさすぎ。

かぶりすぎでしょ。

 

問題なのは、ボスが私を紹介する度。

『彼女はフォトグラファーなんだ』と言うこと。

この会社は画像処理のソフトを扱うことから、

画像や撮影の知識があるとよいとされるのだ。

が。しかしねぇ…。

まあ。たしかに履歴書(CV)には、

そんな時代もあった。とは書きましたよ。

でも。履歴書っていうのは自分で書く、

自分の広告みたいなもんで。

目一杯自分をよく見せるためのものでしょ。

特に外国の履歴書(CV)は、この会社で自分はこんな事をして、

自分はこんな業績をあげましたー。すごいでしょー。

と自信満々に書くスタイル。

ま。言ってみれば。

自画自賛のテレビショッピングを信用できないのと同じである。

 

大げさなテレビショッピングを5割引いて見るように。

雇う側は履歴書を俯瞰で落ち着いて読み。

5割くらい引いて読むのが鉄則だと思うのだが…。

採用者よ。履歴書を見て舞い上がってはいけません。

世の中。基本、お買い得品なんてないのだから。

金額に見合ったものしか手にはいらないのです。

 

そもそも。普通。フォトグラファーだったら。

ここにいないで、撮影現場で活躍しているでしょがーっ。

ボス、舞い上がるんじゃねーよ~。もー。

 

2. びっくり会社編

さて。こちらの会社。なかなかビックリ仰天。

まず。勤務時間。普通にフレックス制度で、

1日8時間 × 週5日で週40時間という決まりもあるし、

コアタイムは10時から15時という決まりもあるのだが…。

びっくりなのは、その管理。

会社に行ったらタイムカードを押すとかもなく、

出勤時間が何かに自動的に記録されるとかもない。

つまり。テキトーなのである。

誰かが10時にいなくても。

『ああ。いないね。まあ。そのうち来るんじゃない』程度。

よって。出勤に関して言えば、

10分、20分程度の遅刻の概念なんかはない。

 

勤務時間自体がノーチェックなので。

10時に来て5時に帰ると7時間労働。だから。

1時間マイナスだからどっかで1時間余計に働かないとなあ。

ということもない。

仕事さえ終わっているのなら別にいいのである。

 

しかし。

仕事が終わっていないのはやはりダメで、

そういう時は残業をするが、

勤務時間を管理していないから、残業代が出るわけではない。

が。そこはちゃんと残業もする。

ドイツ人は時間になったらピュ〜っと帰ってしまう。

というイメージがあるがそんなことはない。

たぶん、それは日本人が作った妄想…。

 

職場は1人~3人部屋になっていて。

自分の部屋のことをmy officeと呼ぶ。

自分のデスクに来てもらいたい時なんかは。

『私のオフィスに来てー』といった感じに使うわけね。

部屋は、各自好きにカスタマイズされており、

観葉植物を大量に投入して、シャングルの中にデスクがある。

みたいな人もいる。なんだかまあ、自由。

 

これが私のオフィス。8帖くらいの1人部屋。エライから1人とかいうのでなく、たまたま1人部屋なだけでペーペー社員です
これが私のオフィス。8帖くらいの1人部屋。エライから1人とかいうのでなく、たまたま1人部屋なだけでペーペー社員です

職場は50人くらい。ご飯は各自、自分で用意するのだが…

皆、キッチンで料理するのである。

勤務時間中ですよ。勤務時間中に料理!

飲み物はミネラルウォーター、ジュース、コーラなどがあり、

自由に何でも持っていってよい。

(かわいい女の子が1リットルのコーラとか飲んでいるからビックリします。皆、砂糖摂りすぎ…。)

果物やシリアルなんかもタダなので勝手に食べる。

 

ン?! なんか子供の声が聞こえた~。と思ったら、

子供が職場を走っていた…。

託児所があるわけじゃないけど。

ベビーシッターが掴まらないときとかは、

連れて来てしまうらしい。

 

そして。同じ課にインド人夫婦がいる。

採用される前から夫婦。

つまり。夫婦で採用されたらしい。

へえ。2人一組で採用したりするわけだ。

これまた衝撃的。12人くらいの課に夫婦一組。

同棲カップル一組(これもカップルで採用)。

これは日本ではあり得ないような気が…。

 

ふうん。なんか色々違うのね~。

と思っていたら、昼2時。

超ランナーみたいな格好になった男がいる。

あれ!? ジョギングに出かけたー!

ジョギングもありですかー。

うーん。想像以上に違う。

 

そんなびっくり1週間であった。

 

 

3. 初トラブル

おお。これは想像と違う。とか。

おお。これは想定外であった。とか

おお。わたくしは間違っておりました。とか。

 

人生はよい意味でも悪い意味でも。

期待や思惑や信念を裏切られることだと思う。

 

はて。

ドイツでの初の週末到来。

土曜日に郵便局に行ったらちょうど13時で閉店。

自転車を買おうと14時半に自転車屋に行ったら。

14時閉店で間に合わず(えーっ。14時閉店って…)。

コインランドリーをやっと見つけ、日曜日行ったら。

日曜日は閉鎖されていたー。

というわけで、1週間分の洗濯物を手洗いした。

ちなみに、ドイツの日曜日はレストラン以外、

スーパーも店も全部閉まっているのです。

(法律で決まっている)

ナニコレ。なにこの生活…。

 

ま。こんな地の果てまで来てしまったし。

週末と言っても友達いないので、ひっそりと部屋で暮らすか。

と思っていたらどっこい。

日本から送ったギターが届かず行方不明になっていることが判明。

でたー。もー。海外はこれだからいやだ。

 

追跡サービスで調べると。

『配送済み』になっている。というわけで。

同じアパートの住人のドアを一軒一軒ベルを鳴らし。

2歳児レベルのドイツ語で。

「私の荷物を探しているんですが知りませんかー?」

と訪ね歩くことに。

親切に対応してくれる人もいれば、

「ないよ。そんなの」と。

煙たがってすぐドアを閉める人もありーの。

もー。これ。なんですか。罰ゲームですかー。

という状態。 

結局。誰も私の荷物を預かっていなかった

 

そして。翻弄されること数日。

関税局から取りに来いとの通達が。

取りに来いって。家に配達してくれないなら。

何のための配送なのか。

 

仕事前に朝っぱらから関税局へ。関税局は郊外にある。

バスで永遠と揺られること45分。

着いたが、ドイツの冬の朝7時半は真っ暗。

真っ暗でストリートの名前も見えんわ、人もいないわ。

通り過ぎるのはタイヤが自分の身長くらいある巨大なトラックだけ。

それがビュンビュン行き交う。

歩いている人もいないし。

帰りのバスもいつ来ることやら 

こんな所にポツンと一人、降ろされても

(いや、まあ。自分で降りたのですがね 

きゃー。

もー。こうやって。人って拉致されちゃうのかもーッ!

と大いに不安になったのだが、

使命: 関税局を探す!やらなければこの無人島を出れん!

と自分を奮い立たせ、ウロウロしていたら見つかった。

 

はて、関税局。すぐ終わりかと思いきや。

ギターの価値を400ユーロ(5万程度) と書いたもんだから。

『これは高価だから、高価だから』と、関税局は大騒ぎ。

いや。これ、関税にひっかからないように。

実際の半額以下の値段書いたんですけどね。

だいたいねえ。何千円の楽器とかないからっ!もーっ。

 

ともかく。引越しの荷物であること。

売るための商品でないことを証明しなければならず。

説明とかやり取りすること、1時間半(当然、ドイツ語)。

関税局の好意により、

なんとか1万円近く付加される関税を逃れた。

 

ま。とりあえず、ギターを取り返し。

ギターを抱えたまま職場へ直行。

 

さて。私の想像では。

仕事は皆、英語で会話するし。

ドイツ人達同士はドイツ語で話すから。

私の英語もドイツ語もグイグイ上達か~?

と思っていたらどっこい。

これが意外な展開だったのである

 

やっぱり。物事って、全て想像と違うのね。

 

 

4. 想定外ドイツ職場編

はて。こちらの会社。

『2. びっくり職場編』でも述べたが、

もうすべてがびっくり。

ヘッドホンで音楽聴きながら仕事し。

昼休みという区分もないのでテキトーな時間に、

キッチンで料理してたりとか。

ジョギングに出かけたりとか。

 

憩いの場にはテーブルサッカーや、

TVゲームなんかが置いてあり、

誘い合ってはそんなので遊んだりする。

欧米の会社って天国かも~。

と思ったのだが、そうでもない。休みが想像以上にない。

 

有休休暇は1年で25日。

会社全体の夏休みとか冬休みはないので

この25日の中から夏休みや、冬休みやら自分で捻出する。

で、私の住むSchleswig-Holstein 洲の祭日は年間9日。

でも、土日に被ってたりもするので、

実質、今年は5日のみ。

5月24日(祝日)の次の祝日休みがなんと11ヶ月後、

翌年の4月のイースター。11ヶ月間も祝日がない…。

 

日本では。

祝日が15日、会社の夏休み1週間、冬休み1週間。有休18日間。

とかだったので、

なんと。日本で働いていた時の方が休み、多いのだ。

あー。なんかイメージと違う…。

 

そしてもう一つ、想定外だったのだが。

私のプロジェクトチームは全員ルーマニア人。

まあ。別にどこの国の人でもいいのであるが、

彼ら、ドイツ語はほとんど話せない。

というわけで、期待していたドイツ語の上達は

ハイ。消えーっ!

 

で、英語であるが、やはりネイディブでないので、

全員、多かれ少なかれ言語障害児。

言語障害がよくなるどころか。

お互いの訛りや独自の文法に慣れることが先決となる。

同じチームの子は。

訛りもすごいわ、文法もメチャクチャ。

基本 "He don't " “She go といったかんじ。

“He doesn’t ~”, “She goes ~” なんて、

彼女の口から聞いたことない。

 

すると。私も毎日一緒にいるうちに。

He dont, She dontになってしまう始末。

はあ。すんません。

人を利用して言葉を学ぼうという私が間違っておりました。

なるほど。こう来たか。想定外

 

しかしまあ。ルーマニア。

共通の文化のバックグラウンドも何もないので会話が難しい。

話というのは。文化や知識のバックグラウンドの共有。

というものがあって初めて成立する。

それがないと。

深い話や、色つや (エロの意でない) のある話というのは成立しない。

普段、友達とする、たわいもない会話というのは、

実は。共通の知識や文化、興味がある上で成立している。

日本で人気を誇るドラえもんが

海外でそれほど人気にならないのも。

日本文化が強すぎ話が通じないからと。聞いたことがある。

シンプソンズが日本に浸透しないのも同じであろう。

 

欧米人と話すネタには必ず、

シンプソンズやサウスパークが出てくる。

これを見ていないと話が通じなかったりするので、

私も過去、ネタを合わせるために必死で英語で観た。

セリフも書き取った。歌も覚えた。

でも、日本文化で育った私には。

やっぱり心から面白いって思えないんだなー。

 

ともかく。外国語での会話は実は。

語学力よりも話すことがあるか、

通じるネタがあるか。が重要となるのである。

 

ま。そんなわけで。結局。

会話といえば天気の話とかルーマニアではどうなの?

というようなお国事情に話を振るのが限界なのであるが。

それでは職場の人間的価値としてはイマイチなわけです。

なぜならば

 

仕事がデキるやつなんてごまんといる。

自分がいなくたって社会は廻る。

総理大臣にだって代わりはいる。 

 

となると。職場での人の価値というのは。

1. 毎日8時間顔をつき合わせても生理的に受け入れられるか。

2. 一緒にいて楽しいか。

というところも肝となってくる。

 

もう中年だし。外見も奪われつつある中、

トークという武器も奪われてしまい、 

さて。君はどう価値ある人間になれるのか。

 

なんだ?キラキラした目か、はたまた雰囲気か?

しかし。普段からイケてる生活をしていないと。

そんなもんは得られんわけで。

こりゃー。立ちはだかる壁はでかい。

外見と会話以外で君は何を勝負できるか。

 

こりゃー。いくら友達いないからといって

毎晩夜9時に寝てる場合でない

 

しかし。ほんと。

トークのネタがねえ…マンネリなのよねー。

『週末、天気よかったね』とか…。

日本だったらもっとオモロイ話、できるんだけどなー。

 

p.s. ここ2日ほどマイナス10度。一歩、外でりゃ体力奪われ中。

家の裏の運河、街の中心地の一角です。
家の裏の運河、街の中心地の一角です。

 

 

5. 優雅と不便の関係性

さて。ドイツ。

ドイツって。なんかこう先進国なイメージで。

会社の夏休み1ヶ月なんでしょ。とかいうイメージで。

優雅な生活のイメージである。

確かに。土日とか皆お休みで。

皆。川辺とか街中を無意味にプラプラ散歩している。

本当にブラプラ~っと散歩していたりするのだ。

なーんか。優雅だ。しかーし。

実際私がどんな生活をしているかと言うと

 

交通手段はバスのみ。

ラッシュアワーで15分に1本。終バスは19時30分。

土日は30分に1本だったり、1時間に1本。

昼2時から5時はバスがない線もある。

よって。自転車が必要になるのだが。

自転車屋が18時で閉まるため、会社に行っていると買いに行けず。

宅急便は平日の昼間のみの配送。

よって。日本から送った荷物が未だ受け取れず。

日曜日にチョコレートが食いたいなあと思っても。

日曜日はすべての店が閉まっているため買いにいけず。我慢。

(法律で日曜日は営業してはいけないと決まっている。レストランは例外)

コインランドリーをやっと見つけたのだが。

家から遠いわ異常に高いわ(洗濯だけで600円)、

プラス、日曜日は閉まっている。

というわけで。洗濯はほぼ毎日手洗い。

(2ヶ月ほど住める仮住まいの家なので洗濯機が買えないのです)

という、なんですかこれ。修行ですかー?

みたいな生活なのである。

 

つまり。

みんながあまり働かず、

みんなが土日に休む社会というのは。

裏をかえせば。こういうことなのですねぇ。

ま。田舎の街だからでしょ。って話も大いにあるが。

ベルリンだって日曜日、店は閉まっておる。

 

便利な社会はみんながたくさん働かないと成立せず。

みんなが働かない社会というのは、

不便な社会で我慢をするということなのだ。

この負の部分を受け入れずして便利さを選んだ日本が。

ヨーロッパ諸国の生活スタイルを羨んではいけないのである。

便利さを手放さない限り、

満員電車と長時間労働から逃れられないのだ。

ゆとり。ゆとりある生活と言うが。

日本よ。その便利さを手放せますかー?

 

今日、食料が買えない。

カスタマーサービスの返事は3週間後かな。くらいの覚悟。

それを受け入れて。

初めて、優雅な生活ができるのである。

優雅とは。実は。不便な生活なのだ。

そして。不便な生活は、優雅に見えるのだ。 

そして。便利さを望まない限り。

それは優雅になり得るのだ。

 

ま。私の生活は不便でも優雅に見えませんが

これは何かが間違っているからで

 

とりあえず。

わたしの望みはタダひとつ。 

洗濯機で洗濯したーい!自転車を買いたーい。

あ。2つか。

ともかく。これらを得ない限り。 

罰ゲームな生活はまだまだ続く