ドイツで鍛える生活 14巻
ここまでのいきさつを読んでいない方は前書きから順にどうぞ。
1. 修行プレイ
辞表を提出したのが前回。
(参照: 13巻:2.辞表提出)
さて。日本的な考え方でいくと。
残りの日々は有給消化に当てられる。
となると。
私は。今年分の有休をまだ使っていないので。
まる一年分、25日余っている。
あれ~?!
もしや。もう会社に行かなくてよかったりして~。
と思ったが違った…。
私は2月末の退社なので。
今年は2ヶ月間の労働と換算される。
(会社の1年は1月スタートで有休も1月に支給される)
よって。
有休25日間 ÷ 12ヶ月 x 出社月数2ヶ月 = 4日。
というわけで。使っていいのは4日間。
えー。確かに、理にはかなっているけど…。
一回支給したもの取り上げるんですかー。
日本だったら持ってる有休、無条件で全部使えるけど。
まあ。考えてみればそっちの方がおかしな話か。
4日ねぇ…。と。有休の申請をしていると。
「東京に帰るのはエキサイティング?」と。
ルーマニア人のチームリーダーが聞いてきた。
「えっ。あ。ンー…」
Yesと言うと、ここを去ることができてハッピー。
と言っているのと同等になり、なんだかとても失礼になる。
しかし。自分で帰ると選択した手前、
Noと言うのもおかしな話で…。
「いやまあ。大きな移動をする時ってのは。
いつでもエキサイティングだよね」
と、曖昧な返事をしてしまった。
「So..... You don't like リューベック」
あー。もー。ズケズケ聞くなあ…。きゃー。助けて~。
「いやー。そうじゃなくてー」モゴモゴ…。
「まあ。小さい街は生活が家族主体だから、
確かにライフスタイルは違う。そうだね、
きっと私に家族がいたらまた違っただろうけど…」
と。またYesでもNoでもない返事をした。
実際。日本でも大都市と地方の生活は違う。
『逃げ』だけど、そういう客観論だけ言いたかった。
リューベックは云々とは語りたくなかった。
私は。ここの住人だけれど、やっぱり本当の住人ではない…。
客観論以上の事はもっと長く住んでいる人に。
言う権利がある。
すると。私のYesでもNoでもない返事に対し。
「あー。わかる。ボクもシングルだから」と、ボスは言った。
「一年目はもう悲惨だった。会社と家だけ。
週末。誰とも話さない日が続いて…。で。
仕方なく、声を出して自分と話してたよ。
そうしないと声を出すチャンスすらなかったしね」
と。恥ずかしそうに彼は笑いながら言った。
なんだか。ハッ。とした。
あっ。彼もそうだったんだ…。
彼は身体も大きく豪快で明るい人である。
そんな人がひとりポツンとこの土地に来て。
そんな日々を1年続けた。
でも彼は。ルーマニアに戻るわけにはいかない…。
うちの会社には。ドイツ人以外に。
インド人とルーマニア人がいる。
全体の20%くらいが彼らである。
彼らの場合、国に帰れば貨幣価値が違うので。
給料は数分の1から10分の1程度まで下がるだろう。
皆。金のために来ている。
皆。家族にいい生活をさせるためにここにいる。
1人で来た私のボスも。
ルーマニアに仕送りしているようであった。
ある同僚は。
私がドイツで育ったから。
ここにいるのかと思っていた。
(ってか。私。ドイツ語片言でしょーがーっ)
別の同僚は。
私の家族がドイツにいるから。
私はここにいるのかと思っていた。
会社のドイツ語の先生は。
彼氏がドイツ人で一緒なんでしょ。
と当たり前のように聞いてきた。
で。私が。『いや。1人なんだけど…』というと。
皆。口を揃えて。
「えーーーっ。君は何でここにいるの?」と。
いや。まあ。なんと言いますか。
私が来た理由。それは…。
ウーン。ドイツ…。
仕事で単身、ドイツの片田舎って~。
かなり辛そうだけど。
人生に波風という色を添えるには。
ちと。オモロイんでないの~。
しゅ、修行じゃー!と。
(参照:序章:失業ブルース #2)
そんなノリだけであった。
そう。結局。私は。
私の『修行欲』を満たすために来たのである。
ま。いわば。
単なる修行プレイ(←なんのこっちゃ)。
私に覚悟はなかった。
で。結果。私も。
ルーマニア人ボスと同じような経験をした。
そして。自称。日本一。
単身赴任のお父さんの気持ちがわかる女になった。
もー。女なのにーっ。こんなにも分かってよいものか…。
そして。
貨幣価値が同じとという甘えにすがり。
ま。今回。タイミングもいいし。
ほな。お父さんは帰りましょうか。
というわけだが。
なんだか。この甘えが。
この背負っているものの余りの軽さが。
とっても恥ずかしかった。
守るべきもののためにここにいて。
いつかは帰ろうとしている皆の姿が。
なんだかとっても強くみえた。
私は。修行プレイ。
もー。幼稚すぎるーっ。
ま。そんなこと言っても。
日本に行くと決断したのだから。
とりあえず。親には戻ると言わねば。
ま。親もいい年の老人だし。無期懲役のような状態で。
ドイツに旅立った娘が一転、帰ってくるとなったら、
まあ。嬉しかろうと。メールをすると…。
「えー。なにそれ。もっと居ろよー」とマユゲ父。
「えー。そうなのー。なーんだ」と拍子抜けのマユゲ母。
「ってか。もっと居てくれないとー。アタシらだって。
行こうかと思ってたのにー」と再び父。
(ってかアンタら、私が海外居る時来たことないじゃん!)
と。いきなり帰ってくるな攻撃。
えー。そんな~。
友人は。
「帰ってくるって…。そんなんでどうするつもり?」
きゃーっ。
こりゃー。日本の生活も。
鍛える生活になりそうだ。
2. いよいよ会社残り1週間
辞表を提出してから数週間が経過した。
(参照: 13巻:2.辞表提出)
会社を辞める時というのは。
日本ではわりとコソコソするもんである。
で、最終日に。
『本日をもって退社します。皆様のご多幸とご発展を云々~』
的なメールが流れ。
おお。そうだったのか。
というふうになるのだが。
はて。ドイツではどうなのかというと。
どうやら。
やっぱりコソコソするものらしく。
秘書のお姉ちゃん(手続き担当)には。
『誰にも言わないからね』と耳打ちされた。
で。おお。秘密にするもんなんだ。
と思った次第なのだが…。
その1週間後には、別の部署の人が。
私の所にコソコソやって来て。
「ねえ。辞めるんだってっ!」と言ってきた。
そして。また。
「誰にも言わないからねっ」と。耳打ちされた。
ほう。なるほど。
一応。秘密扱いらしいのだが。
ま。それは皆の気分だけで。
やっぱり。
どこかでは噂として広まっているのであろう。
このへんも日本と同じである。
というわけで。
なに食わぬ顔で普通に仕事をしているのだが。
しかしまあ。もうすぐ去るとわかりつつ。
一つのプロジェクトに携わるというのは妙なもんで。
残業までして一生懸命やるのもわざとらしいし。
10時に来てそそくさと5時に帰れば。
辞めるからって、テキトーにやりやがって~。
となるわけで。
そのどちらの感情にも触れない程度の行動を取るのであるが。
もう今さら重要なプロジェクトには関わらないので。
やっぱり。部外者的意識はある。
そんなところへ社内メールが流れた。
* * *
皆さん、
社内全体の結束を高めるため、
顔写真入りのメンバー表を作り、
社内全体でシェアします。
自分の職種、家族と趣味を提出してください。
* * *
えー。趣味と家族構成ですかあ…。
ま。私は辞める身なので。
さすがにもうこれはいいだろうと。
提出しなかったのだが。
私も出せと言われて出す事に。
ウム。どうやら。最後の最後まで。
この会社の一員として扱ってくれるようだ。
まあ。有り難いけれど。
じゃあ。もう来なくていいよ。とか。
言われる可能性はないってことかあ。
しかしまあ。ドイツの会社って。
仕事は仕事。プライベートはプライベート。
なのかと思っていたのだが。意外や意外。
休日なんかにも会社のイベントを催したりして。
仕事以外での結束みたいなものを求めるというか…。
仲間意識を持とう的な活動がけっこうあるのである。
さてと。家族メンバーか。いないんですけど…
『None 』とか書いていたら。
会社の一番上の人。ドイツ人の大ボスが。
私のオフィス(注1)へ来た。
(注1: =デスク。各自部屋になっている)
「どう?調子は?日本への引越の準備は進んでいるかい?」と。
ああ。そうそう。撤退時の一番の問題。
銀行の最後の引き落とし…。
「いや。まあ。ちょっと銀行をどうしようかと…。
電気とかインターネットとかの支払いは1ヶ月後だから。
銀行口座を閉めるにも閉められないし~。でも。
口座を維持するにはドイツの住所が必要だしねぇ」と私。
「なんなら会社の住所使っていいよ。
なんでも不都合な事があったら、会社使っていいからね』
とそのボスは言って去っていった。
おお。勝手に去るという決断をした人に向かって。
なんと。や、やさしいではないかー。
まだチームの一員どころか。
去った後も協力してくれるとはなんと有り難い。
やさしいじゃーん。ドイツじーん!(←いきなり好印象)
あれ?。しかし。これ。
ドイツが腐れ縁になったりして~。
『ドイツで鍛える生活アゲイン』とかは。
勘弁してほしいなあ…。
さて。その。
社内の団結を高めるとかなんとかのメンバーリスト。
ドラフトが上がってきたのだが…。
あれ~!? 3分の1くらいの人が。
デフォルトで入っている顔写真と職種以外空欄。
そうなのよねー。こっちの人って。
やれ。って言われても。
やらなきゃいけないという感覚がなく。
まあ。これは別にいいだろう。と。
自分で判断したらやらんのである。
しかし…。あんなにリマインダーが出てても。
やらんという姿勢を保つのか。すごすぎる…。
で。この趣味欄がわりと面白い。
まあ。職業柄、趣味は写真とか。
コンピュータ関連が多い。お国柄だなあと思うのは。
うちの会社は80%くらい男性なのだが。
趣味、ピアノ。という人多数。
さすが。クラッシック音楽の国である。
さらに見ていくと。
突っ込みどころ満載の趣味も。
趣味: 家族。
いやー。まあね。このへんはねえ。
まあ言いたいことはわかるが…ねぇ。
それ。趣味なのか…。
はい。次。
趣味: キリスト教。
あー。この人。私のオフィスまで来て。
ジーザス・クライスト。はいかにエラかったか。
という話を永遠としたのよねえ。
趣味だったのか。
しかも。彼のコンピュータの上に、
いつも『聖書』が乗っかっている…。
コンピュータと聖書。
このアンバランスさがなんか映画のシーンのようでよい。
次。
趣味: 自己啓発。
おーーーーい!
もー。さすがっ。外人の管理職。
言う事に謙虚さというものがない。
自分をエラくみせたり、
強くみせるより。わざと落としてみせるくらい方が。
部下はついて来るもんだと思うのだが…。
謙虚にしてては生きていけんか。ここでは…。
主張せんとね。
じゃあ。私も。
最後の1週間。もう意味ないんで。
行かなくていいですかー。とか主張すべきか。
言えーん…。そんな事。
それなりのやる気をみせつつ。
働いちゃうんだろうなあ…。
やっぱし。
自分は日本人であったー(←なにを今更)。
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